最近,薄力粉だけを使ったパンを作るようになった(過去記事:家で作るパンだってコストにこだわる。だから薄力粉を使う。実績はできた!)。


薄力粉だけのパンは極端であるが,私が作っているパンには,薄力粉を入れている。理由は,自宅で食べるパンのコストダウンである。
しかし,根拠なしに薄力粉だけのパンを作っているわけではない。
我流ながら,理屈は持っている。
それは,強力粉を作って作るパンの加水率を,薄力粉のたんぱく質の量に合わせて加水率を調整することである。
小麦粉を買うと袋に栄養成分が記載されている(記載されていないのも稀にある)。
例えば,昭和産業強力粉に場合は以下のようになっている。栄養成分はロットによって変わるようであるから,小麦粉を買うた度に確認する必要がある。下の例では,小麦粉100 gあたり,たんぱく質の量は13.1 gである。すなわち,13.1 % がたんぱく質である。

一方,薄力粉はたんぱく質が少ない。下に奥村製粉製薄力粉の栄養成分を示す。たんぱく質が小麦粉100 gあたり8.4 g,すなわち,8.4 %である。

パン作りにおいて,小麦粉のたんぱく質の量は,パンの骨格であるグルテンの形成に関わる。小麦粉を水を混ぜてドウを作るとき,粘り気を作ってくれるのがグルテンである。グルテンが多いほど,粘り気が強く,パン生地を楽に作ることができる。
しかし,薄力粉はたんぱく質の量が少ないため,強力粉のレシピをそのまま流用しても,ドウに粘り気がでない。お好み焼きの生地のようになってしまう。
最近では,多加水・長時間発酵のパンが人気を集めている。多加水の定義がどのようなものかわからないが,私は,およそ,加水率70 % 以上の場合ではないかと考えている。70%以上の加水率になると,一次発酵後の成形が思うようにできなくなるためだ。
薄力粉のみでパンを作ろうとした場合に,加水率70%は,まず,不可能に近いであろう。生地がドロドロでまとまらない。
では,なぜ,多加水・長時間発酵のパンが人気を得ているのであろうか?それは,低温発酵のパンには,従来の製法のパンよりも多くのアミノ酸などが含まれていることも関係するであろう(当ブログの過去記事:発酵種を使用したパンの美味しさは,どうやら,白身魚の刺身みたいな物らしい〜文献検索から〜)。
しかし,ここで,多加水と長時間発酵は対でなければならないか?という疑問が生じる。
私のたった半年のパン作りの経験だけで,言えば,多加水と長時間発酵は対ではない。コンピュータ用語を用いれば(と,いうかブール代数の用語であるが),ANDではなくORである。
これを実証したのが,薄力粉のパンでもある。
強力粉(一般にたんぱく質が12%以上含まれている小麦粉)の加水率に対して,たんぱく質が少ない分の加水をしてパン生地を作れば,薄力粉でも十分にパンになるのではないかということである。
グラフを示そう。下のグラフは,横軸に小麦粉のたんぱく質が12%のときの加水率を取っている。一方,縦軸は,小麦粉のたんぱく質量が変化したときに,横軸の加水率に相当する加水率である。横軸,および,縦軸とも単位はパーセントである。

たんぱく質12 %の強力粉を使った加水率70 %のパンに相当する,たんぱく質8 %の薄力粉を使ったパンの加水率を46%にすれば良いということを示すグラフである。
もし,強力粉と薄力粉を混ぜて70%のパンを作れるのであれば(実際,私は,やっているが),薄力粉のみのパンの加水率をもっと高めることができる。
薄力粉のみのパンは,発酵しないのではないかと思われる人もいるかも知れないが,パン生地の発酵において,小麦粉のたんぱく質の量は直接は関係しない。なぜなら,酵母によるパン生地の発酵は,でんぷん(小麦粉の栄養成分表の炭水化物)の加水分解であるかである。
酵母はでんぷんをグルコース(ブドウ糖)に分解して,さらに,以下の化学反応を進める。
C6H12O6→2C2H5-OH + 2CO2
<グルコース>→<エタノール> + <二酸化炭素>
パン生地の発酵に関係するのは,主に炭水化物である。たんぱく質の量はほとんど関係ないはずである。
では,なぜ,パンに強力粉が用いられるか?
それを書き出すと,この記事が長くなってしまうので,またの機会にする。
一つだけ言っておかなければならないのは,たんぱく質の少ない薄力粉を水でこねたときにできるグルテンの量が強力粉を使った場合よりも少ない。グルテンは生地の中で風船のような小部屋を作り,中に,小麦粉と水と酵母を入れる。グルテンの少ない薄力粉の場合には,グルテンの小部屋に含有できる水の量が少ない。よって,加水率を下げれば,生地はできる。そして,長時間発酵させれば,十分に美味しいパンになる。
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